竹刀を置く日は来ても、剣道をやめる日は来ない|引退した3年生へ

竹刀を置く日は来ても、剣道をやめる日は来ません
玉竜旗が終わり、引退を迎えた3年生。中学3年生も、そろそろ一区切りですね。「今日からもう、稽古に行かなくていいんだ」という人もいるのではないでしょうか。
「これからも続けてください」——それが本音ではあります。でも今日は、そういう話をしたいわけではありません。お伝えしたいのは、「剣道をやめること」と「剣道で身につけたものを手放すこと」は、まったく別だということです。
竹刀を置くことは、悪いことじゃない
大学でも続ける人ばかりではありません。高校に上がるタイミングで「一区切りにしようかな」という人もいると思います。進学や就職で環境が変わって、自然と竹刀を握らなくなることもある。
それは、まったく悪いことではないと僕は思っています。3年間あれだけのことをやり切ったなら、それだけで十分です。
僕自身は大学でも剣道を続け、今も剣道で生きているので、やめる側の気持ちが完全に分かるとは言えません。ただ、高校を卒業する時に「大学に行かなくてもいいかな」と思った時期は、実はありました。祖父が車屋をしていて、僕も車が好きなので、そちらの道もやりたいなと思ったんです。大学に行ってからも「もう嫌だな」と思う時期はありましたから。

剣道をやめた人でも「仕事ができる人」が多い理由
高校で竹刀を置いた人、大学の途中でやめた人、社会人になって全然やらなくなった人、そしてまた戻ってきた人——いろんな人を見てきました。
そこで思うのが、剣道をやめた人でも、仕事ができる人が多いということです。なぜだろうと考えると、これは剣道の技術(面の打ち方など)ではなく、剣道をやる過程で身についた「考え方」だと思うんです。竹刀は置いてもいい。でも、その考え方まで置いてしまうのは、本当にもったいない。
では、具体的に何が転用できるのか。3つお話しします。
転用①:逆算思考
剣道をやってきた人なら、体で分かっているはずです。明日が大会本番なのに、前日に死ぬほど走り込んで筋トレをしたら、どうなるか。筋肉痛で動けなくなりますよね。むしろ本番でパフォーマンスが落ちる状況を、自分から作ってしまう。
だからみんな、本番から逆算して調整していきます。いつまでにきつい練習をして体を作るか。いつから練習量を落とすか。前日までの1週間をどう過ごすか。これを3年間、当たり前にやってきたはずなんです。
言われてみれば、テスト前の一夜漬けと同じ構造ですね…
そうなんです。試験前日に詰め込む=大会前日に走り込む。構造はまったく同じ。体は疲れるし、頭も回らないし、本番でいつもの力が出ない。剣道では「やってはいけない」と知っているのに、勉強ではやってしまう。試験日から逆算して「この日までにここは絶対覚えておく」——大会に向けて稽古を組み立てるのと、やることは同じです。
転用②:本番に向けた「調整」
試合当日に体調を崩したら意味がない——剣道をやっていれば分かっていることですよね。睡眠、食事、前日の過ごし方。試験もまったく同じです。
『ドラゴン桜』でも描かれていましたが、試験当日と同じ時間に起き、同じ格好で出かけ、本番と同じような問題を解く。こうしたルーティンを重ねておくと、当日に緊張したり、テンパったりしなくなる。本番を「知っている景色」にしておくと、いつも通りの力が出せるんです。
こんなに言っている僕自身、中高時代も大学時代も、勉強では逆算思考が全くできていませんでした。でも、剣道ではできていたんです。そして今、社会人になってどう転用しているかというと——「この日に動画を出したいから、ここまでに撮影しておく」「この日にこれをやるから、それまでにこの準備が必要だ」という逆算は、自然とできる。不思議ですよね。剣道でやってきたことが、仕事で活きているんです。
転用③:相手によって「対応を変える」
面に対しては返し胴を狙う。小手に対しては小手返し面を狙う。相手に応じて技を変えるのは、剣道では当たり前ですよね。
これは社会人になっても同じです。「この人はこういうタイプだな」というのが必ずあります。
- 褒めた方が伸びる人もいれば、叱った方が伸びる人もいる
- 自分で考えさせた方がいい人もいれば、ある程度指示をした方がこなせる人もいる(経験を積んだ上で、新しいことができるようになる)
- 相手だけでなく、仕事の内容によっても対応を変える
基本的には「一生懸命」という姿勢が大事です。ただ、お金が必要な場面でお金を使いまくっていたら意味がない——そういう見極めも必要ですよね。こうした考え方は、剣道以外のいろんなことに転用できます。
「当たり前にやってきたこと」は、もう財産です
挨拶をする。相手の心を考えて、スリッパの向きを揃える。掃除をする。剣道をやってきた人が「当たり前」にやってきたことです。
でも、今はそれができない子もたくさんいると聞きます。「最近の子は挨拶をしないよね」「声が小さいよね」と。剣道をやっていれば、声は出しますよね。こうした部分こそ、社会人になっても必ず活きてくると思うんです。だから——中学・高校で剣道を一度ストップする人も、その考え方だけは、捨てないでほしいんです。

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そして、健康がなければ何もできない
剣道人生は、これからも長く続けられます。前回の放送でもお話ししましたが、生きていても、健康でいられなければ意味がないんですよね。
ある大手企業の社長さんの話です。その方は車にも乗れるし、運転手をつけることもできる。それなのに、通勤や移動は自転車なんだそうです。「それだけお金があるのに、なぜですか?」と聞いたら、こう答えられたそうです。
「乗れるから乗るのではない。健康が一番大事だから。自分の体が終わってしまえば、仕事もできなくなるし、好きなこともできなくなる。だから健康を第一に考えている」——僕もまったく同じだと思いますし、皆さんも同じだと思います。健康がなくなったら、何もできなくなってしまう。
僕自身、1〜2年剣道から離れただけで、心の状態も、肉体も、すごく悪くなりました。今ようやくできるようになってきましたが、そこまで戻すのに本当に時間がかかった。逆に、毎日コツコツ積み上げている人は強い。先日のバレーボールでも、39歳で大会に出ている選手がいました。年齢に関係なく動き続けられるのは、毎日コツコツ頑張ってきた人なんだと思います。
まとめ:また、戻ってきてください
高校で、ガッツリした練習は一度置くかもしれません。それでもまた戻ってきてほしいですし、続けられる環境があるなら、ぜひ続けてほしいと思っています。
大人になってからこそ、剣道は大事だと僕は思っています。「勝てるように」とは言いません。でも——体を動かし続けられるように、一緒に頑張っていきましょう。
玉竜旗で、そしてそれぞれの舞台で引退した皆さん。本当にお疲れさまでした。竹刀を置く日は来ても、剣道をやめる日は来ません。
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