「勝ちたい」より「もう勝っている」|日本古来の予祝と、1週間後の自分への手紙

お花見は、何のためにやるか知っていますか?
「桜がきれいだから」——もちろん、それもあります。でも昔の日本人にとっては、少し違う意味があったそうなんです。
あれは「前祝い」だったと言われています。まだ何も実っていないものに対して、先にお祝いをする。これを「予祝(よしゅく)」と言うそうです。今日は、この予祝の考え方と、試合前のメンタルにどう活きるかをお伝えします。
「予祝」は、ちゃんとした学問の言葉です
予祝と聞くと、少しスピリチュアルな話に聞こえるかもしれません。でもこれは民俗学という学問の中で、ちゃんと使われている言葉だそうです。
「予祝芸能」という分野があり、その年の豊作を先に祝ってしまう神事(しんじ)のことを言うそうです。代表的なのが「田遊び」。新春、まだ何も植わっていない田んぼで、種まきから田植え、稲刈りまでを村の人たちが全部演じるんです。まだ一粒もお米はなっていないのに。しかもこれは一部の地域だけの風習ではなく、全国に300以上の伝承が残っているとも言われています。昔の日本人は、それだけ本気で「先に祝う」をやっていたんですね。

「願う」と「祝う」は、立っている前提が違う
なぜ先に祝うのか。ここが面白いところです。「願う」と「祝う」は、似ているようで全く違います。
| 立っている前提 | 言葉の例 | |
|---|---|---|
| 願う | まだ手に入っていない | 「どうか、うまくいきますように」 |
| 祝う | もう手に入っている | 「よかったな」「今年も実ったな」 |
これを試合に置き換えてみてください。「勝ちたいな」と思っている状態と、「もう勝っている」と思っている状態。体の状態も、思考も、パフォーマンスも、かなり変わってきます。
「勝ちたい」とどこかで思ってしまうと、力が入りやすくなったり、肩が上がったり、息が上がったり、足が止まってしまったりする。でも「勝った前提」に立っている人は、不思議と柔らかい動きができて、自然体で臨めるんです。
僕も「勝とう」とは思わないようにしていました
中学・高校時代、僕は「勝とう」と絶対に思わないようにしていました。その代わり、イメージ練習はよくやっていました。
自分が勝っているイメージ。あるいは「俺は動物なんだ」という気持ちで、本能で戦っているイメージ。すでにそうなっている前提に立ってしまうんです。試合1週間前の壮行会も「来週、頑張るぞ!」と先に盛り上がるわけですから、予祝に近いのかもしれません。
それと、よくあることなのですが——勝った時のイメージが、夢に出てくることがあるんです。勝っている雰囲気、優勝賞状をもらっている雰囲気。そういう時に、本当に優勝してしまうこともある。それくらい優勝のイメージが鮮明にできているから、夢にまで出てくるんだと思います。ソフトバンクの孫正義さんも、「俺たちは来年、再来年、10年後にはこうなっているんだ」と、社員の前で語られていたそうです。具体的なイメージができているほど、達成しやすくなるということですね。
予祝のポイントは「一人でやらない」こと
イメージトレーニングとは、何が違うんですか?
ここが面白いポイントです。イメージトレーニングは、一人でやるもの。でも予祝は、みんなでやるものなんです(もちろん一人でやるのが悪いわけではありません)。
田遊びも、お花見も、壮行会も——みんなで集まって、みんなで楽しんで、先に喜ぶ。ここが大きな違いです。フィギュアスケートの羽生結弦選手も、オリンピックへ向かう飛行機の中で、優勝のイメージができすぎて大号泣したそうですよね。
中学生の時、実際にこんなことがありました。先鋒の選手のお父さんが「優勝したら、お前らウナギ食って帰るぞ」と。他にも「勝ったら、あそこに寄っても間に合うかな」「優勝したら、俺らバスもフェリーも間に合わないんじゃない?」なんて、勝った後の話ばかりしていたんです。くだらないと思うかもしれません。でも僕は、これには実際に意味があると思っています。
小学生の頃も「優勝したら、あれが買えるな」なんて話をしていました。物でつられている感はありますが(笑)、優勝したイメージがあるからこそ、そこに向かって本気で取り組めるんです。チームによって「勝ちたい」の解像度はバラバラです。なんとなく勝ちたい人と、本気で優勝の絵が見えている人とでは、力の発揮の仕方が全然違います。だからこそ、先に喜んでおくといいと言われるんですね。
今日からできる予祝|「1週間後の自分」に手紙を書く
ひとつ、すごくいいなと思った方法があります。1週間後の自分に手紙を書くという習慣です。
来年の目標のような先すぎるイメージは、どうしても描きにくいですよね(もちろん、それも必要です。4年に1度のオリンピックを戦う選手は、先のイメージがあるからこそ毎日頑張れるわけですから)。そこで直近の目標の立て方として、月曜から始まるなら「金曜日の自分へ」手紙を書くんです。書く内容は3つ。
- 今週は、どんな1週間でしたか
- 誰を笑顔にできましたか/誰を喜ばせることができましたか
- この1週間で、何を学びましたか
これを「先に」書いておくんです。そうすると、解像度が一気に上がります。
たとえば、急に欲しい車ができると「意外と、この車とすれ違うこと多いな」と目につくようになりますよね。ざわざわした場所でも、自分の名前を呼ばれた時だけは聞き取れる。「この駅で降りる」と思っていれば、ウトウトしていてもその駅名だけは耳に入ってくる。意識を向けたことは、実際に見えるようになるし、聞こえるようになるんです。

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まとめ:先に喜んでおくと、そこへ近づいていく
だから金曜日の自分へ、「こういう1週間だったよね」「こういう人を笑顔にできたよね」「こういうことを学んだよね」と先に書いておく。すると、本当にそういう1週間になっていく。これも、予祝の一つに近いと思うんです。
「勝ちたい」ではなく「もう勝っている」。願うのではなく、先に祝う。お子さんの試合前にも、ぜひご家族で「勝ったら何を食べに行く?」と話してみてください。その会話が、解像度を上げてくれます。ぜひ、来週の自分への手紙も書いてみてくださいね。
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